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札幌本部

2023.12.04

北大農学部生がビール販売 宮地帝輔君の挑戦

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かつて開拓使麦酒醸造所(札幌ビールの前身)が札幌の地に設置されたのは、札幌農学校開校と同じ明治9年(1876年)。現在のサッポロファクトリーの位置である。ここに、日本初の日本人によるビール造りのタネがまかれ、後の北海道のビール文化開花につながった。それから約150年の時を経て今、1人の北大農学部生がオリジナルクラフトビール造りに挑戦をしている。北海道大学農学部農業経済学科4年の宮地帝輔(みやぢたいすけ)君である。「未来開拓倶楽部ビール」という彼らのオリジナルビールがオンラインでも発売された。彼のビール造りの原点、クラフトビール造りへの挑戦について話を伺った。

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―所属研究室・サークルなどについて教えてください。

 「北海道大学農学部農業経済学科・食料農業市場学研究室4年です。『北海道のクラフトビール醸造所における販売戦略について』という研究をしています。自分自身すごくビールが好きで、北大ビールサークルを立ち上げたり、「未来開拓倶楽部ビール」というオリジナルビールを造ったりしています。趣味はクラフトビールを飲んだりビールについて学ぶことで、好きが高じて日本ビール検定の2級も取りました。アウトドアや古代エジプトにもはまっています」

―宮地君とビールとの出会いについて教えてください。

 「大学に入ったとき、自分は内向的な性格でした。しかし、お酒を飲むと、相手と腹を割って話すことができました。こうした経験から『お酒とコミュニケーションの可能性』を感じ、お酒が好きになりました。特にビールが好きになったのは「とりあえず生で!」という言葉に憧れてビールをよく飲んでいたからです。大学3年生の時にはInstagramでビールアカウントを始めました。また、大学3年生の夏休みなどを利用して、ビールの原料となる大麦やホップの農家さんのところにアルバイト・視察に行ったりもしました」

【大学3年時にホップ生産農家に働きに行ったときの宮地君(2021年9月11日、上富良野町)】

―宮地君は大学3年生終了後1年間オランダで農業研修をされていたそうですが、ビールに関してどのような経験をしたのですか?

 「オランダにはハイネケンをはじめアムステル、グロールシュ、ババリアといったビールブランドがあります。ホストファミリーがとても良い方々で、滞在中にオランダビールをはじめドイツビールなど本場のヨーロッパビールを毎日飲ませてもらいました。また、研修中も休暇を取っては、世界最大のビールのお祭りであるドイツのオクトーバーフェスに参加したり、イギリスのパブを巡ったりしました。面白かったのは、ドイツバイエルン州にあるヴァイエンシュテファン醸造所です。ここは世界最古の醸造所といわれており、ミュンヘン工科大学の醸造学科がその建物内に置かれています。また、ベルギーでは修道院が作っているビール『トラピストビール』を飲んだり『ランビック』という野生酵母を使った酸っぱいビールを飲んだりしました」

【ドイツの醸造所見学時にお世話になったプランク醸造所オーナー醸造長のミヒャエル・プランク氏と(2022年10月4日、醸造所併設のパブで)】

―北大に戻ってきてからどのような経緯で「北大ビールサークル」を立ち上げたのですか?

 「帰国したら好きなビールで何かしたいと思い、まずは北大ビールサークルを立ち上げました。ヨーロッパで体験したビールの多様な味わいや文化が面白く、日本にはどのようなビールやビール文化があるのかということをもっと知りたいと思いました。活動としては、札幌のビアバー巡り、醸造所見学、ビアギーク会(ビールの勉強会)などを行っています。最近ではサッポロファクトリーを中心とした開拓使麦酒に関する歴史巡りツアーにも関わっています。さらに、来年3月3日にサッポロファクトリーで開催予定の「北海道のクラフトビールが大集合」をテーマにしたイベントの企画も進行中です!」

【北大ビールサークルの新入生歓迎会(2023年6月13日)】

―未来開拓倶楽部ビールを作ろうと思ったきっかけを教えてください。

 「ビールサークルを立ち上げたのと同時に、『未来開拓倶楽部』という団体に出会いました。未来開拓倶楽部は『ゼミやプロジェクトを通じて、大学では学びきれない事柄を北大の様々な学部の教授や外部の実業家とともに学ぶ』という学生団体です。倶楽部の活動に初参加した時、ビールサークル設立の話をしたところ、顧問の先生に『倶楽部でオリジナルビールを造ったらどうか』というお話を受けました。先生に醸造所の方を紹介していただき、ビール造りのご相談をしました。すると、ビールの仕込みに20万円かかることがわかり…いったんはビール造りをあきらめました」

―そうだったんですね。その後はどうしたのですか?

 「それでも倶楽部の中で、ビールの事業をしたいという想いから、ビールゼミを開きました。というのも、お金がかからずできたからです。人前での講義は人生初でしたが、「やってみたらなんとかなる」と自信がつき、諦めきれなかったオリジナルビール造りをする覚悟が決まりました。まずは、20万円の資金を調達するところから始めました。初めて企画書を書き、説明会などを通じて学生に出資のお願いをしました。結果的に10人の学生にビール造りの出資をしていただき、中心メンバーとして活動を開始しました。Beer PJ(ビアプロジェクト)の始まりです」

【ビールゼミを開く宮地君(2023年5月19日)】

―なるほど!そこから本格的にビール造りが始まったのですね。第一弾未来開拓倶楽部ビールができるまでの過程について教えてください。

「未来開拓俱楽部 Beer PJが手がける新たな挑戦、それが『第一弾未来開拓俱楽部ビールです。学生たちが手がけたこのビールは、まずは未来開拓俱楽部の仲間たちに味わってもらいたいという熱い思いからスタートしました。今年の6月から始まったプロジェクトでは、学生たちにビールを提供する完成記念パーティーを目指し、中心メンバーとの熱い議論が重ねられました。

第一弾未来開拓倶楽部ビールは、3種類のホップを使用し、桃、オレンジ、ライムのような香りが引き立つフルーティーなクラフトビールです。『北大の緑豊かな自然の中で、心地よい香りに包まれる昼下がり。静けさの中で交わす乾杯に』というシーンをイメージしました。そのために、レシピ開発からラベル作成、そして9月1日の記念パーティーまで、様々な工程を経てきました。7月10日には澄川麦酒さんでの仕込み作業が行われ、麦芽を粉砕し、煮込み、ホップで風味づけし、最後に酵母を加えるという手順で醸造が進められました。

【ビールを仕込む宮地君(2023年7月10日、澄川麦酒西岡工場)】

第一弾未来開拓俱楽部ビールの特徴的な点は、ビアスタイルを選定する段階からのこだわりです。「クラフトビールを飲んだことがない」という人にも飲みやすいビールを造りたいと思い、セッションIPAというビアスタイルにしました。香りも重要視し、桃やレモン、ライムの香りを引き立たせるため、慎重にホップの品種を選定しました。そして、もう一つの大きな特徴が、第一弾未来開拓俱楽部ビールはおそらく生成AIを使用した日本初のビールラベルなのです!同じく未来開拓倶楽部で行われているAIアウトプットゼミのメンバーにお願いをして、生成AIを使ったビールラベルを作ってもらいました。」

【AIアウトプットゼミで作成したラベルを用いた第一弾未来開拓倶楽部ビール(2023年10月18日、北大構内)】

―素晴らしいですね!!第二弾未来開拓倶楽部ビールも制作しているとのことで、そちらの方も教えてください!

「寒い冬の夜を彩るレッドIPAが第二弾として登場しました。このビールは4種類のホップが織りなす多彩な香りのハーモニーが特徴です。ビール好きはもちろん、普段クラフトビールを飲まない方も楽しめる冬の夜を彩る一杯に仕上げました。

ビールを口に含むとまず感じるのは、麦の甘さとしっかりとした味わいです。その後、松やベリー、柑橘系を思わせるホップの香りが広がります。アルコール度数は少し高めに設定されており、深みと複雑さを持つビールに仕上がっています。

また、このビールはクリスマスディナーとの相性も抜群で、ローストビーフやピザ、フライドチキンなどとの組み合わせが特におすすめです。寒い冬の夜には家族や友人、恋人と共に、このビールを片手に暖炉の前でゆっくりと楽しんでみてほしいです。

現在は、「自主、独立、自営」を大切にする未来開拓俱楽部を巣立って、「パイオビア」としてオリジナルビールの開発・販売をしています。ビールの詳細な紹介は、パイオビアのホームページ第二弾 未来開拓俱楽部ビール | パイオビア (piobeer.com))に載っているのでぜひ見てみてください!こちらのビールはパイオビアのオンラインショップや北大正門横のカフェdeごはん、カレー食堂心で入手可能です」

【第二弾未来開拓倶楽部ビールの広告=パイオビアHPより引用】

―宮地君のこれからの展望と意気込みについて教えてください!

「ビールは人と人をつなぐ素晴らしいコミュニケーションの手段だと信じています。自分自身、ビールで乾杯することで和やかな雰囲気が生まれ、会話が盛り上がり、お互いを深く理解できる瞬間を何度も経験しました。

ビール事業の目標は「北大にクラフトビールブームを巻き起こす」ことです。北大教職員、OBOG、北大と縁の深い札幌市民や北海道民に、特別なシーンにぴったりなクラフトビールを提供し、広めていきたいと思っています。まずはクラフトビールが好きな方々に届け、『おいしい』という評価を得ながら、クラフトビール未体験者にもアプローチしたいと考えています。

そして、自分たちのビールがきっかけとなり、たくさんの醸造所の素晴らしいビールに触れてもらい、北海道全体がクラフトビールの中心となる未来を作りたいです。私たちのビールを通じて、北大コミュニティと地域の方々が新たなビールの魅力に触れ、楽しんでいただけることを願っています。」

【友達と語らうときも、ビールがあれば必ず笑顔になる(2023年9月30日)】

 今回、宮地君のビール造りへの挑戦を取材して、自分自身も刺激を受けるような感覚であった。今後もビール造りを続けていきたいという熱い思いを語ってくれた宮地君。彼らのビールは現在オンラインショップ(第二弾 未来開拓俱楽部ビール | パイオビア (piobeer.com))からお買い求めいただくことができる。現在ビールを取り扱っていただけるお土産屋や飲食店の方も募集しているとのこと。

また、12月16日(土)には第二弾未来開拓倶楽部ビール販売を記念した「クリスマスビールパーティー」が北大正門横のカフェdeごはんにて行われる予定である。こちらは貴重な樽生でのビール提供となっている。お申し込みは以下のURLから。

https://forms.gle/byyryKZz3qMMvukr7

問い合わせ

宮地帝輔(北海道大学農学部農業経済学科4年)

連絡先:taisuke0422m@eis.hokudai.ac.jp

Instagram:@piobeer_teitei

サムネイル写真(最上段):第一弾未来開拓倶楽部ビールを手にする宮地君=11月8日佐藤撮影

(写真:佐藤撮影以外は宮地君の提供)

                (札幌農学校リポーター=M2佐藤祐也)