お宝アーカイブスその1
明治から昭和に描かれた植物画たち

概要

明治9年に開校した札幌農学校からその後身の北海道大学に至るまで、写真技術が十分に発達していない時代に、研究者や学生は、植物や動物について標本画で学び、研究をしていました。
このアーカイブスで見ることのできる全426点に及ぶ植物画は、北海道大学農学部の校舎内で21世紀に発見されました。

明治から昭和にかけて、当時の画工(職業画家)たちや学生の手によって描かれた作物の標本画です。
これらの中には、リンゴや桃、柑橘類、ベリー類など20種類以上の作物があり、枝の硬さから果実の柔らかさまで伝わり、細かい葉脈から虫食いの穴まで描かれた精密で生き生きとした作品も多数含まれています。
札幌農学校開校から150年を経てなお色褪せず輝きを保っている素晴らしい作品群を、精巧な写真と各作品に残る文字たち、そして専門家による解説を含めて、お見せします。

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ピックアップ

これらの6枚の写真は、20種以上の作物が描かれた全426点の植物画のうち、点数の多い作物と絵が美麗なものなどをピックアップしたものです。6点はベリー類やリンゴ(赤、青)、柑橘類、スグリ、モモです。これらは北海道で現在もよく栽培されています。
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全体解説

鈴木卓

北海道大学大学院農学研究院教授
(園芸学)

鈴木卓

講義や実習に使われた品種見本

農学部の大型改修工事(2008年)に伴う物品の整理で、かつての園芸学ゼミ室兼図書室(S131室)に眠っていた戦前(明治・大正期?)の‘お宝’が、日の目を見ることになったのです。植物画は、古い段ボール箱に無造作に入れられ、埃を被っていました。カラー写真もなかった時代に、

リンゴや西洋ナシを始めとする果実の品種見本は、精緻な植物画としてカラフルに描かれ、講義や実習などに役立てられていたものと思われます。廃棄するには勿体無いので、私が研究室の片隅に残しておきました。この度、松井理事長を介し同窓会およびボランティア学生の皆さんのご協力で、多くの方々に植物画をご覧いただく機会が訪れ、大変有難く思っています。研究発表は、今日パソコン+pptが当たり前ですが、私が大学院生の頃まではスライドプロジェクターかOHP、それ以前は手書きの模造紙をめくっていた時代もあったそうです。また、野鳥図鑑の多くは今でも絵で描かれており、これは写真では隠れて見えない模様(フィールドマークといい、種の判別に役立つ)でさえも、絵を用いれば忠実に再現できるためと聞いています。そう考えると、現代の我々には想像もつかない工夫や使い道が、これらの植物画には込められていたのかも知れません。是非、この機会に植物画と実物を見比べて(実物が既に身近に無いものも多くありますが)、往時に想いを馳せて貰えればと思います。関係者全員に感謝の意を込めて。

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井上高聡

北海道大学大学文書館准教授

井上高聡

カメラ普及以前の美しい視覚的記録

カメラの普及以前、色彩も含めて「見たままを写生する」という記録の方法は、農学を学び、研究する場合に欠かせない技術でした。植物学、動物学、昆虫学といった分野では、観察したものを視覚的に記録し、その記録に基づいて考察するという研究方法を取るためです。当時の学生は講義

の中で写生の練習を行ない、教員は自身の研究発表や講義のために作画をしています。また、札幌農学校時代には「画工」と呼ばれる、植物・動物・昆虫などの絵を描く専門技術者もいました。ここに掲げる「植物画」は、こうした当時の農学の教育・研究のあり方を伝えています。
描かれているリンゴ、ナシ、ベリー、サクランボウ、ジャガイモなどは、札幌農学校以来、北大農学部が栽培方法や品種改良などの研究を続けてきた植物です。現在はいずれも北海道の代表的な農作物となっています。「植物画」の画題は、北大農学部の農学研究史の一端を示しているのです。
「植物画」の瑞々しい果実や青々とした枝葉の鮮やかさは眼を惹きます。虫食いや葉枯れ、果実の傷み、病の斑点までも描き切っている点には印象が深く残ります。北大農学部の教育と研究の歴史を伝える「植物画」は、同時に、描かれた植物そのものの美しさ、そして、描き手の学問への真剣な眼差しをも感じさせる貴重な資料と言えます。

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