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札幌本部

2021.06.21

青山淳平氏が講演 考える会フォーラム

 当会と本学の大先輩である新渡戸稲造博士の事績と、博士が設立した札幌遠友夜学校の歴史を研究・普及し次世代育成に貢献している一般社団法人「新渡戸稲造と札幌遠友夜学校を考える会」(松井博和理事長)が主催する第9回記念フォーラムが6月19日(土)、札幌市内の秋山財団ホールで開催され、作家の青山淳平氏が基調講演を行いました。

 演題は「新渡戸稲造と松山事件 ~警世の扁額から~」。よく知られる松山事件(1932年)の舞台となった愛媛県内での新渡戸博士の行動を丁寧に追い、事件の後に苦境に追い込まれた当時の時代的状況とともに、博士が揮毫したとされる扁額「Tranquillity of Ocean Depth(深海の如き静けさ)」の謎に迫るノンフィクションストーリーに、集まった人々はじっくり聴き入りました。

 青山氏は評伝、小説を中心に活躍し、『海市のかなた-戦艦「陸奥」引揚げ』(中央公論新社)など多数の著書があり、映画「ソローキンの見た桜」の原作者でもあります。2020年10月には『それぞれの新渡戸稲造』(本の泉社)を上梓。同書に収録された小説三編の一つが「新渡戸博士の扁額」で、ここでもその謎を追っています。北海道へは、同書取材のほか、戦艦「陸奥」やビハール号事件、新田長次郎などの取材で何度も来訪しています。

 講演で青山氏は、松山事件を巡る報道などについて詳しく解説。新渡戸博士を攻撃する新聞と擁護する新聞が現れる中、「擁護の背景には大きな力が働いていたのではないか」との推論を展開しました。新渡戸博士は事件の翌年、日本が国際連盟脱退を表明した直後にカナダで客死しています。

 扁額は、戦争突入へとゆがむ時代に、軍閥支配を批判した警世のメッセージではないかとされていますが、松山市に近い愛媛県宇和町の教会に掲げられていた扁額に署名がないことなどから真相を追った青山氏は、一人の札幌農学校卒業者が揮毫者である可能性に辿り着きます。愛媛県出身、39年本科卒業の末光績(すえみついさお)です。

 末光は明治33年札幌農学校予科入学直後にトーマス・カーライルの読書会で「衣装哲学」を読みました。新渡戸博士に大きな影響を与えた書です。先輩の一人有島武郎と親交が厚く、熱心なキリスト者として成長し、教会の日曜学校と遠友夜学校の教師を務めました。

 青山氏は講演の最後に、有島武郎が情死した5カ月後に創刊された雑誌「青年と處女(おとめ)」掲載の末光の詩を紹介しました。「時代の惨憺たる廃墟の中で 大きな梁木の一端に手をかけ べた潰れになった巨大なものを バリツ…バリバリツ…と持ち揚げて 下に拉(ひし)がれて居る生純なものを 自由と生命に放ってやる 更に偉大な人が出て欲しい」(抜粋)。

 フォーラムは当初、かでる2・7で多くの市民を集めて開催される予定でしたが、6月20日までの緊急事態宣言延長を受けて会場を変更し、関係者だけが集って行われました。フォーラムの様子は撮影され、編集後にオンライン配信される予定です。