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札幌本部

2024.02.13

「エルムの鐘」の音蘇る

当会と北大農学部は2月10日、農学部校舎中央棟の時計塔最上階の鐘楼に設置されている製造90年の古い鐘の整備工事を行い、試し打ちを行って鐘の音が蘇りました。「カーン、カーン」というやや甲高い音です。【音は最下段の動画で視聴できます】

【高さ2.4mの台座に載った鐘と打鐘装置の全体を見上げて、工事前の打ち合わせをする関係者たち】

 長年鳴らされることがなかったこの鐘の音を蘇らせる取り組みで、当会が「エルムの鐘プロジェクト」と呼んでいます。私たちが北大創基150周年記念事業プロジェクトに位置付ける4つのプロジェクトの一つで、札幌農学校開校(1876年8月14日)から150年目の2026年に記念の鐘の音を鳴らすことができるか、現在検討しています。

【工事前の様子。奥側がA方式のスイングホイール。手前がB方式につながる打鐘装置。鐘のすぐ下に見える白っぽい部分が3つ目の打鐘装置】

 「エルムの鐘」は正式名称ではありませんが、北大構内に広がるエルム(春楡)の森に、太平洋戦争前から長く響き渡っていたとみられることから当会が仮称しています。鐘本体はいわゆる「ベル型」の青銅製洋鐘で、高さ50cm、底面直径64cm、推定重量90kg。鐘と一体となった直径92cmのスイングホイールをロープ等で引いて回転させ、鐘の内部に吊り下げた舌(ぜつ)=ハンマー=が鐘に当たって音が出る方式(A方式)。ただ、農学部のものは、上の舌とは別のハンマーにつながるロープを引いて鐘が鳴る方式(B方式)も同時に備えています。

【工事前の台座上の鐘と打鐘装置全体の構造が360度の方向から分かる動画がこちら】 https://youtu.be/mOGdSHJefRo

 この鐘は米国McShane Bell Foundry 社<注>が1934年(昭和9年)に鋳造し、当時の北海道帝国大学が輸入したもの。鐘と台座には「MC SHANE BELL FOUNDRY CO.」と」「BALTIMORE, MD.」「1934.」の文字、及びMcShane社のロゴとみられる意匠が刻印されています。現在の本校舎の一部である中央棟などが新築された1935~36年に、新たに設置されたと推測されます。

【『エルムの鐘』に刻印された文字や意匠】

 翌1936年には旧陸軍特別大演習が道内で行われ、大元帥である昭和天皇が演習総覧のため行幸し、本校舎に大本営と天皇御座所を設けて滞在しています。満州事変後の戦火拡大に伴う国威発揚のためのこの大イベントのために、校舎新築と鐘塔整備が急がれた可能性もあります。

【農学部本校舎中央棟の全体。その中央が時計塔で、頂上に位置するペントハウスのように見える部分が鐘楼】

 また、鐘とほぼ同時に設置されたと推測できる電動式の金属製打鐘装置(高さ52cm)が、B方式のハンマーにつながるワイヤーと繋がれていたことから、設置初期には鐘が定期的(頻度は不明)に機械で鳴らされていた可能性もあるとみられます。A方式のスイングホイールを動かしていたはずのロープ等は現在発見されていません。

【取り外す前の2つの打鐘装置の様子が分かる動画がこちら】https://youtu.be/wF9XhNKBZZg

 なお、もう一つ別の打鐘装置(写真の銀色の部分、高さ57cm)が、鐘内のB方式のハンマーとは別の場所を打つ位置に設置されています。これは農学部によると1995年に設置されたとのこと。こちらも電動式で、装置にはタイマーが取り付けられていました。こちらは上の装置に替わって機能していたとみられるものの、設置から約20年の間に修理が必要となり、2020年には駆動部が動かないことが判明しました。

【スイングホイールと鐘は一体化して回転する構造になっている】

 鐘の音は何年から何年まで鳴っていたのか、どのような時に鳴らされていたのか、などについては現在不詳です。ご存知の方はぜひ情報をお寄せください。例えば「●●年には音を聞いたことがある」「毎日始業時には鳴っていた」などの情報がありましたら、サイトの「問い合わせ」ページか事務局 info@alumni-sapporo.or.jp  へお送りください。

 10日の工事は、あらかじめ鐘の機能や寸法をMcShane 社に確認した上で、上記二つの打鐘装置を取り外し、鐘楼内に特製の展示台を設置しました。また、新たに麻製ロープを作り、A方式とB方式の両方に取り付け、手で引けば鐘が鳴るように整備しました。試し打ちは2方式とも行い成功しています。

【電動機械式打鐘装置を取り外す工事を行う関係者】

 鐘楼は今後、鐘の歴史などを解説するなどして展示スペースとして整備し、北大150周年に備える計画もあります。ただ、鐘楼は時計の位置よりもさらに高い地上8階の位置にあり、エレベーターで5階まで上がっても、さらに細い螺旋階段を3階上がらないと到達できません。高齢者には難しい面もあります。また、普段は安全確保のため、5階の階段入り口は閉鎖しています。

【鐘楼内に設置した特製展示台。取り外した新旧2つの電動機械式打鐘装置を仮り置きした】

【工事完了後に行われた試し打ち。前半に「A方式」の音2つ、後半に「B方式」の音2つが収録されている。動画はこちら】https://youtu.be/TBdTBoRquC8

【農学部校舎の外、玄関前から聴こえた鐘の音。動画はこちら】 https://youtu.be/VKSXuhBVKWE

 今後、鐘を鳴らすことについては、農学部内で飼育する実験動物などへの影響を考慮して、頻繁に鳴らすことは避け、限定的な回数とする見通しです。

 ちなみに札幌時計台の鐘は、札幌市中央区ウエブサイトの「歴史の散歩道」によると、旧工部省の工場(東京・赤羽)で造られ、1882年(明治15年)8月に設置されて時計と繋がれ、時を告げ始めたとのこと。形はベル型で農学部のものと似ていますが、やや大きめです。

 

<注>ミズーリ州セントルイスに所在する鐘メーカーで、現在の社名は McShane Bell Company。ヘンリー・マクシェーン(1830~1889年)が1856年にメリーランド州ボルチモアで創業し、2019年に現在地に移転した。世界中の教会、聖堂、庁舎、学校などのために製造輸出し、過去150年間に30万個以上の鐘を製造したと言われる。米国内の大型西洋式ベルメーカーで最も歴史がある社とみられる。

(事務局。 写真は櫻井徳直「さっぽろ農学校」特別講師、現場動画撮影は久田徳二事務局長。玄関前での動画撮影は石塚敏母校担当理事)

(動画URLは現在限定公開で、このページからのみアクセスできます。アップロード先のYouTube「さっぽろ農学校」チャンネルは現在整備中です。)